« 『Original Jacket Collection - Rubinstein Plays Chopin』 | トップページ | 『ザ・フー:アメイジング・ジャーニー』 »

2013年8月22日 (木)

『ジミ・ヘンドリクスかく語りき 1966-1970 インタビュー集』 スティーブン・ロビー 編著 安達眞弓 訳

中学生の頃、NHKで放送された「モンタレー・ポップ・フェスティバル」の記録映画でJimi Hendrixを最初に見た。夏休みで、土曜だったのではないかと思う。あのときのことは今でも鮮明に覚えている。印象に残ったのは、楽器も舞台セットもぶちこわして帰って行くThe Whoと、ギターに火をつけてぶっ壊すジミ・ヘンドリクスだ。検索してみると1975年の放送のようなので(ほんと、最近こういうのは便利)、1967年の開催から8年後になる。現在からみて8年前というと僕などはほとんど地続きな感じがしているけど、当時その記録フィルムはちょっと終わってしまったムーブメントの記録というように見たのではなかったかと思う。地続きな感覚は抱かなかった。1967年から1975年の間に何があったのか。

とくに、75年というのは60年代音楽の終着点みたいな年で、ヒッピー文化もサイケデリックも古くなり、Beatlesの4人は相変わらずヒットチャートをにぎわしていたけど、ブラック・ミュージックは耳障りがよくてディスコ向けの機械的なリズムを重視したものが流行し、ロックはQueen、Kiss、Bay City Rollersみたいなビジュアルを前面に出して売り出すバンドがはやるようになり、フォークも主張を引っ込めてDylanは『ディザイア』を出してローリング・サンダー・レビューを経て「ラスト・ワルツ」に出演した後低迷しはじめる。(「ラスト・ワルツ」は本当に象徴的なイベントで、もちろん、これはThe Bandのラスト・コンサートなのだが、近頃は、70年代前半までの音楽、そしてそれまでのボブ・ディランのお葬式パーティーのように思えて仕方ない。)それが、76年。Eaglesの『ホテル・カリフォルニア』も同じ年。イギリスでは、Sex Pistolsが75年、アメリカでもPatti Smithが75年、Ramonesが76年とパンク、ニューウェイブみたいなのがどんどん出てくるようになったのもこのへんが境。シンセサイザーの普及期がきてコンピューター・ミュージックが一般化し始めるのはこのすぐ後。ウッドストックやモンタレー・ポップ・フェスティバルに象徴される時代の音楽は、75-76年頃を境に急速に過去のものになっていったのだ。

ウッドストックのジミヘンを見たのは、しかし、79年頃だったのではないかと思う。まだ三鷹駅前にあった三鷹オスカーで三本立てで見たのはどこかで書いた記憶があるけど、ジミのパフォーマンスは今度はギターをぶっこわすわけではないけど、当時のアメリカの状況をそのまんま表現するかのようにギターにのたうつような叫び声を出させ、戦場を思わせる歪んだ爆音をストラトキャスターのアームとアンプのフィードバックを見事に使いこなして完璧に表現する。この曲はウッドストックだけで演奏されたわけではないようだけど、少なくともこのときのジミは神がかっている。そもそも調子のいいときのジミには神がかりというより人間のリミッターを外してしまったような凄まじを感じる。ドラッグの効果があるのかどうだかは分からないけど、そう、リミッターが外れている感じというのがいちばんぴったりくる。常時火事場の馬鹿力的なとんでもない演奏を聞かせてくれる音楽家はそんなにいるものではない。

モンタレーのパフォーマンスだって、別にぶっこわしているからすごいのではなくて、これはこの時のライブ音源を聞けば分かるけど、ギターをぶっこわして燃やしても「音楽」は何も聞こえないんだよね。それはあくまでパフォーマンスであって音楽ではない。でも、パフォーマンスには意味が無くて音楽がいいかどうかだなどということではもちろんない。それも含めて、ステージから感じられる緊迫感は鳥肌もので、ギタリストとしてだけではなく宗教じみた熱気、熱狂をもたらすことのできるグルのようでさえある。中学生の時、性的な暗示も感じさせるアクションや、まるでギターとセックスするかのような動きでアンプにからみつき、射精のようにライター・オイルをギターにふりかけ、火をつけたギターをふりまわしてたたき壊すジミは、それまでクラッシック音楽以外は、日本の歌謡曲やフォークソングみたいなものしか身の回りに無くて、やっとビートルズとロックに触れ始めたばかりの自分には十分に衝撃的だったし、今でもそのインパクトはぜんぜん衰えていないのだ。

前置きが長過ぎたかもしれない。本書は、ジミのデビューから死までのインタビュー集である。実は、それなりに期待して読み始めたのだが、少し期待外れで、正直、あまり面白くなかった。理由は、やはりギターの人だったというようなことではない。いや、確かにそういう面もある。しかし、ジミの書いた歌詞は悪くない。Bob Dylanへの敬意、他のミュージシャンへの評価などを読んでいると、意外に言葉の人でもあったことが分かるのだ。何よりも、あの「星条旗よ永遠なれ」が饒舌にジミの思想を語っているではないか。インタビューがつまらない理由の大半はインタビュアーにあると思う。少し驚くのだが、その多くが論文を書こうとしている院生とか学生だったりしているのだ。プロのインタビュアーだとしても、そもそもポップ音楽の流行をおいかける音楽誌のライターのインタビューで、最近注目のミュージシャンにインタビューにきたという類いのものだから、内容は元々おもしろいはずもない通り一遍のものになりがちだという側面がある。それに、そういう状況でジミが楽しんで前向きになんでも語ったとも思えない。読んでいて、明らかにジミがいらついていると思える場面に再三遭遇する。少なくともインタビューに答えているジミはまともだし、つまらない質問にがまんしてきつあうような理由もなく、必要最低限のコメントをするだけで、それほどサービスしていないということだと思う。アーカイブとしての意味はあるにせよ、読者は食い足りない気分にさせられるんじゃないか。ジミの本当の気持ちや考えが十分に現れているととらず、インタビューの状況を考えながら肉声がここにあるのかを疑いながら読むくらいで丁度いい。

それでも、何カ所か興味を引かれた箇所があったので書き留めておきたい。

まず、Jimi Hendrix Experience (JHE) のメンバー、ノエル・レディングとミッチ・ミッチェルについては、結構評価していたようで、バンド・メンバーなんだから当然ではあるにせよ、僕たちが今聞くと、ただのバックバンドにしか思えなかったりもするのだが、ジミの中では、異なる才能をもった三人が集まったバンドとして考えられていたということ(少なくとも、インタビュアーにはそう言っている)。バンド・オブ・ジプシーズでは、バディー・マイルス、エディー・コックスと黒人だけの構成になるのだが、JHEは混成で、そのため白人に魂を売って金儲けをしているといった批判が黒人のコミュニティからは随分あったらしい。JHEのデビュー時は、ジミは単身渡英してチャス・チャンドラーとオーディションしてメンバーを選んだみたいだけど、バンド・オブ・ジプシーズみたいな黒人だけのメンバー構成はマネージャーが嫌ったらしい。そういう時代だったのだ。もっとも、黒人の歌手とみるとラップやR&Bだと決めてかかるところは今でもあるからね。

関心をもっているミュージシャンでは、エリック・クラプトンはそれなりに評価している。何回か出て来るがあまりネガティブなことは語られていない。意外だったのは、僕も大好きなアルバート・コリンズを大推奨していること。ビートルズについては、才能があるすばらしいシンガーでソングライターだとしつつも、おそらく『ホワイト・アルバム』をさしてちょっと懐古趣味になりつつあると言っている。また、体制側にいるし、むしろとけ込もうとしているとも。Beatlesが音楽の教科書にのることはあっても、Jimiの『星条旗よ永遠なれ』は音楽の時間には聞かないだろうと思う。そういうことは、Jimiはよく分かっていたのだ。

ギターについては、やはりストラトキャスターが一ばん気に入っていると言っている。テレキャスターは、サウンドはいいか悪いかとちらかしかなく、音色のバリエーションが薄い、ギルドは繊細だけど最高の音がでる、ギブソンのニューモデルはひきこなせなかった、という感じ。フライングVだとか、Jimiもギブソンを弾いているけど、ストラトのイメージが強い。実際、ジミ以降、ストラトを弾く人が増えたと書かれているのを読んだ気もする。確かに、クラプトン、ベックとかもそうかも。あのSGのイメージ強かったザッパも最後はストラト弾いてたし。

ひとつ引用を。302ページ。

 ここに座っているだけだから、おれは忙しそうに見えないけど、忙しいって言うのはこういう場所でしっとしていることなんだよ。

こういうことが言える男の言うことは信じてもいいんだよ。

502ページ。

 そう、おれがエレキの宗教家と名乗ってきたのは、人間にとって大事なのはキリスト教じゃなく、音楽が信仰のよりどころだから。世界紛争の大半はキリスト教徒が起こしたものだ。おれの目の前に広がっているのは、あらゆる信念、あらゆる宗教の核心をすべて集めた普遍的な宗教なんだ。

ジミの発言には、「スピリチュアル」なものへの親近感があり、このまま歳を重ねていたら、本当に音楽教の教祖になったのではないかというぐらいマジなのだ。

508ページ。

 ヘンドリクスは超自然現象について饒舌に語ったのち、キリスト教に触れた。

「キリスト自身ではないとしても、彼の信義を支える人々がたくさんの戦争を起こしてきた。キリスト教が過去のものだという理由がそこにある。信仰とは自分の内面から見つけ出し、心安らかに生きて行くためにかけがえのないものだ。人はふつう、愛と平和のために生まれてくるものなのに、世間体を満たすためだけに社会生活で喪服を着せられている。」(略)「・・・おれの人生は音楽一色だ。音楽とは人生と感性がすべてだから、他の職業と同じように時間をかけて取り組まなければならない。プレイするたびに自分の魂の一部を犠牲にしている。(略)世界に気付きを与えたいんだ。音楽やサウンドの波が起きて伝わる波動は宇宙的な広がりがある。」

インタビューを締めくくっているのは、ジミの名言集なのだが、その最後は、ジミの最後に残した詩からだ。

「人生の物語はウインクするより短い。愛の物語はハローとグッドバイ。二人がもう一度会えるまで。」

巻末に、エリック・バードンとのインタビューが収録されている。ジミのやる気のないインタビューよりもむしろ心がこもっていて一読の価値はあると思う。

|

« 『Original Jacket Collection - Rubinstein Plays Chopin』 | トップページ | 『ザ・フー:アメイジング・ジャーニー』 »

本の感想」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『ジミ・ヘンドリクスかく語りき 1966-1970 インタビュー集』 スティーブン・ロビー 編著 安達眞弓 訳:

« 『Original Jacket Collection - Rubinstein Plays Chopin』 | トップページ | 『ザ・フー:アメイジング・ジャーニー』 »